文部科学省アンケート調査への回答


  「臨床解剖学研究および卒後教育(臨床研修)に関わる法改正の必要性」
   に対する見解 

 
(文部科学省のアンケート調査への回答抜粋)

 埼玉医科大学 医学部 解剖学
 教授 永島 雅文
 

 本学医学部では、統合カリキュラム「人体の構造と機能」コースのうち2年生の「構造系実習」ユニットが一般の「系統解剖学(肉眼解剖学)実習」に相当する。ここでは解剖体1体を学生4名が担当しているが、解剖体はほぼすべてが生前に篤志献体登録した方のご遺体である。本学では1年間に4045柱の献体が成就している。

 医学部では正規のカリキュラム以外にも肉眼解剖学の学習機会を設けており、毎年「臨床解剖セミナー」を夏期休暇中の学生受入プログラムとして運営している。これは2年生以上の医学部学生と博士課程の大学院生を対象として参加者の希望に応じて自主学習を支援するプログラムであり、最近は2030名の学生が67体で勉強している。ここでは解剖学の教員以外にも多くの外科系教員が参画し、それぞれのチームが3時間程度の指導をしている。具体的には模擬手術を供覧し局所解剖学を解説することで、疾患の病態生理を理解し、合理的な手術アプローチや合併症を回避する注意点など、外科治療戦略を学ぶ貴重な機会となる。

 保健医療学部(4学科、1学年が約200名)におけるパラメディカルの教育にも、可能な限り体験学習の機会を設けており、具体的には、医学部の解剖学実習室において医学部と保健医療学部の教員(有資格者)により解剖された67体のデモンストレーションが、有効な教育資源となっている。

 さらに臨床医学と解剖学の共同研究が行われ、この活動は臨床研修医・指導医の教育(生涯学習)に貢献している。なお最近の共同研究は倫理委員会で承認された研究計画に基づいている。今後も、臨床解剖学を医療人の生涯学習として位置付け、教育実践と共同研究を展開していく方針である。従って、臨床医学の様々な領域と、解剖学の間の対話がさらに重要となると考える。

 このように肉眼解剖学は、医療従事者が生涯にわたって研鑽を続けるべき学問であり、その教育と研究は密接不可分に関連している。「外科医のトレーニング」といった安易な表現は不適当と思うが、解剖学の修練が外科学の発展に寄与することを考えれば、臨床医学と解剖学は相互に理解し尊敬すべきである。医学部解剖学の教育担当者は、献体者と遺族への感謝と礼節をわきまえた上で真摯に解剖学を学ぶすべての学習者を支援すべきと考える。

 以上のように本学では、現行の死体解剖保存法および(通称)献体法の規定にある「医学教育」を広く解釈して、解剖学の教育研究を行っている。従って現在のところ、医学に関する研修・研究における死体使用を明文化するために、法律を改訂することは必要不可欠とは思わない。しかし法改正の際には、献体者と遺族への感謝と礼意と、医学教育や研究の範囲が逸脱しないことに留意すべきと考える。

 


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